研究・論文

【紙上バトル実況①】CSVとは何か?~CSRとの違い~【ポーター vs クレーン】

2020年5月13日

みなさん、最後に全力でケンカをしたのはいつ頃ですか?ふつうは大人になるにつれて、ケンカは憚られていくものだと思います。しかし、世の中には紙の上でケンカをしてお金をもらえる合法的な職業があるのです。ズバリそれは、紙相撲力士…ではなく、研究者です。他人の論文を批判し、自分の論文への批判に反論することを繰り返す、それが研究者のお仕事。今回は、CSV/CSRの専門分野で有名な研究者たちの紙上バトルを、5回にわたって実況したいと思います。

論文と概念の紹介:共通価値の戦略(CSV)/競争優位のCSR戦略

以下2つの論文は、経営戦略論で非常に有名なマイケル・ポーターがCSRを徹底的に批判したものです。まずは批判対象のCSRとは何かを、説明していきます。

共通価値の戦略 経済的価値と社会的価値を同時実現する | マイケル E. ポーター,マーク R. クラマー | ["2011年6"]月号

「共通価値」(shared values)という概念は、経済的価値を創出しながら、社会的ニーズに対応することで社会的価値も創出するというアプローチであり、成長の次なる推進力となるだろう。GE、IBM...

競争優位のCSR戦略 【2006年度マッキンゼー賞受賞論文】「受動的」では価値を創出できない | マイケル・ポーター,マーク・R・クラマー | ["2008年1"]月号

CSR(企業の社会的責任)は、贖罪や保険であってはならない。むしろ、より積極的な態度で臨むことで競争優位の源泉になりうる。すなわち、数ある社会問題のなかから、企業として取り組むことで大きなインパクト...

企業の社会的責任(CSR)とは

CSRは、Corporate Social Responsibilityの略で、企業の社会的責任と訳されます。企業が社会に対して果たすべき責任の議論は、歴史が深く極めて多岐にわたっており、このテーマだけで論文を何本も書く人もいますので、本当にざっくり説明します。企業の社会的責任は、以下の4つに大別できます。

まず、最も基本的な責任は、ビジネスでお金を稼いで従業員に給料を払い、お金を出してくれている投資家に還元をすることです。 つぎに、当然のことながら、上記は定められたルールの中で遂行しなければなりません。法律を守ることが、第2の責任です。 ここまでの2つは、果たさないと企業が存在し得ない社会的責任です。ポーターも流石にこれらは批判していません。

法律に定められてなくとも、倫理や道徳に従って行動を取ることが第3の責任(以降、道徳的責任といいます)です。今年の7月からレジ袋が有料化されますが、何十年も前から環境保護の観点から、レジ袋を削減する取り組みを推進していた企業は、道徳的責任を果たしていたということになります。

レジ袋有料化、20年7月から 全小売り店に義務付け

イオン九州は13年にレジ袋を有料化した(福岡県粕屋町) ...

最後は、慈善活動(ボランティア、寄付など)といった、企業が地域社会の一構成員として自発的に果たすべき責任(言い換えれば、やらなくても誰からも怒られないけど、やったら喜ばれること。以降、慈善的責任といいます)です。最近で言うと例えば、日産がコロナ拡大を受けて、中国に義援金とマスクを寄付したことなどが該当します。

日産、新型肺炎でマスク10万枚寄付

日産自動車は中国で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大を受け、現地の関係先に500万元(約7800万円)の義援金と10万枚のマスクを寄付すると発表した。湖北省武漢市に本社を構える合弁企業で

ポーターは、道徳的責任と慈善的責任を痛烈に批判していきます。理由は一言でいうと、ビジネスに関係ない性格が強く、儲からないからだそうです(詳細は後述します)。企業はそれらの責任を果たすことを改め、代わりにCSVという新しい概念に取り組んでいくべきと主張しています。

共通価値の戦略(CSV)とは

CSVは、Creating Shared Valueの略で、共有(シェア)できる価値の創造が直訳になります。誰と誰が価値をシェアするのかと言うと、「企業」と「地球環境・地域社会」です。つまりCSVとは、企業が地球や社会のためになるビジネスで儲けることを指します。最も分かりやすい例は、エコ商品の販売ですね。ポーターは、CSVを以下のように定義しています。

社会のニーズや問題に取り組むことで社会的価値を創造し、その結果、経済的価値が創造されるというアプローチ 企業が事業を営む地域社会の経済条件や社会状況を改善しながら、みずからの競争力を高める方針とその実行

出所:Porter, M. E. & Kramer, M. R.(2011)「共通価値の戦略」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2011年6月号,pp.8-31

よくあるCSVの紹介では上記を引用し、企業が社会的価値と経済的価値を同時に創出すること、ビジネスを通して社会問題を解決することといった説明がなされます。

しかし、これらの説明にはポーターのCSRに対する批判意識が全く反映されておらず、良い表現ではないと思います。CSVを本質的かつ端的に評するなら、企業がお金を儲けるために「事業と関連が弱い社会問題を無視する/事業と関連が強い社会問題だけに取り組むこと」がより適切です。

最後にポーターがCSVとCSRの違いをまとめた表を紹介して、第1回は終わりにしたいと思います。

出所:Porter, M. E. & Kramer, M. R.(2011)「共通価値の戦略」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2011年6月号,pp.8-31

この表は中身よりも、下の但し書きの方が圧倒的に重要です。「法律および倫理基準の順守と、企業活動からの害悪の削減が想定される」。換言すれば、CSRの法律やルールを守る第2の責任は、CSVに取り組む上でも当然果たさなければならないよということになります。CSVはお金を儲けるための理論ですので、第1の利潤をあげる責任は果たして当然です。

つまり、ポーターはCSRの内、儲けにつながらないのに、ルール化されていない倫理や道徳上の責任を果たすこと、ボラインティアや寄付などを通して地域社会に慈善的責任を果たすことだけを批判していると解釈できます。

表の中身については、そもそも比較項目が明示されていないので、1つ1つを見ると非常に分かりにくいです。ですが、全体を俯瞰して見ると、社会問題への取り組みをビジネスの基準(儲かるかどうか)で行っていこうと提起していることは分かりますね。

次回は、ポーターがCSRを批判する具体的な4つの根拠をご紹介します。

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参考文献

Porter, M. E. & Kramer, M. R.(2006)"Strategy and Society:The Link Between Competitive Advantage and Corporate Social Responsibility." Harvard Business Review, December. (村井裕訳「競争優位のCSR戦略」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2008年1月号,pp.36-52)

Porter, M. E. & Kramer, M. R.(2011)"Creating Shared Value:How to Reinvent Capitalism-and Unleash a Wave of Innovation and Growth." Harvard Business Review, January.(DHBR編集部訳「共通価値の戦略」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2011年6月号,pp.8-31)

Carroll, A. B.(1991)"The pyramid of corporate social responsibility: Toward the moral management of organizational stakeholders." Business horizons, 34(4), pp.40-48.

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