研究・論文

【紙上バトル実況②】戦略論の第一人者によるCSR批判【ポーター vs クレーン】

2020年5月14日

今回は、前回に引き続き、戦略論で有名なマイケル・ポーターが、CSR(企業の社会的責任)を、どのような理由から批判しているのか詳しく見ていきます。

マイケル・ポーターのCSR批判

ポーターは、一般的に企業がCSRに取り組むべきであるとされる4つの根拠「道徳的義務」「持続可能性」「事業継続の資格」「企業の評判」を挙げて、それぞれを以下のように批判しています。

「道徳的義務」に対する批判

道徳的義務とは、企業にとって倫理観を尊重し、一般市民や地球環境などに配慮しながら事業活動を行うことは当然の義務とする主張です。CSRの説明で書いた道徳的責任と同じですね。ポーターは、これを下記のように批判しています。

ある社会的便益を他の社会的便益と比較する場合でも、またその費用対効果を検討する場合でも、道徳的な評価が必要となるが、そのための基準は確立していない

Porter, M. E. & Kramer, M. R.(2006)「競争優位のCSR戦略」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2008年1月号,pp.36-52

具体的に説明すると、企業が商品の製造過程に、国内の障害者雇用を取り入れることと、発展途上国の女性雇用を取り入れることは両方とも社会的な便益がある取り組みですよね。しかしながら、どちらがより良い社会につながるかを判断することはできないということです。

「持続可能性」に対する批判

持続可能性とは、国連が掲げる「持続可能な開発」に代表される「啓発された自己利益の追求」を訴える主張だそうです。なんやねんそれ…って感じですよね。分かりやすく言うと、地球や将来世代の繁栄や平和を脅かさない形(=持続可能=啓発された)で、自分たちの欲求を満たすことと言えます。ポーターは、これを下記のように批判しています。

企業の経済利益と規制対応が両立する場合には申し分ないが、それ以外の場合は曖昧過ぎて、長期的な目標と短期的なコストのバランスをいかに取るかという判断基準にはならない

Porter, M. E. & Kramer, M. R.(2006)「競争優位のCSR戦略」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2008年1月号,pp.36-52

経済利益と規制対応が両立した具体例には、低燃費車と自動車排出ガス規制などが挙げられますね。それ以外の曖昧すぎる具体例には、企業がボランティアや寄付などを通して慈善的責任を果たすことなどが該当します。社会の持続可能性につながる正しい行いでも際限がなく、好不況の変化が激しい中で企業が継続して取り組むことは難しいのが現実です。

「事業継続の資格」に対する批判

事業継続の資格とは、どのような企業であれ、健全な地域社会が成立していなければ、ビジネスを展開することはできないのだから、地域社会を構成する多様な主体(行政、市民など)から認められる必要があるという主張だそうです。ポーターはこれを下記のように批判しています。

外部のステークホルダーを満足させようとすると、企業は言われるがままのCSRを実施するということになりかねない。各ステークホルダーの主張は重要だが、これらステークホルダーは企業の能力、市場における競争上のポジショニング、社会的価値の追求と企業利益のトレードオフについて理解しているわけではない

Porter, M. E. & Kramer, M. R.(2006)「競争優位のCSR戦略」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2008年1月号,pp.36-52

ステークホルダーは、企業の利害関係に関わる主体のことで顧客や従業員から、広い意味では地球環境まで含まれる言葉です。ポジショニングとは、その企業やブランドの確立された特徴を指します(例:スターバックスはゆったりとした空間で上質な時間を楽しむ場所、マクドナルドはいつでも安く使える便利な場所など)。トレードオフは、相容れない状況を指します。スターバックスが、100円コーヒーを出したり、マクドナルドが600円のフラペチーノを出せないのは、前述したポジショニングと相容れないからです。 言い方を悪くする方が分かりやすいので汚く換言すると、「企業の戦略やマーケティングを何も知らない連中にペコペコしてたら、経営が破綻するわ!」とポーターは言いたいわけです。

「企業の評判」に対する批判

企業の評判とは、CSR活動は企業の評判を高めることにつながるという主張だそうです。これをポーターは下記のように批判しています。

どのような成果を社会にもたらしたのか、ましてや事業にどのような貢献があったのかは明確ではない

Porter, M. E. & Kramer, M. R.(2006)「競争優位のCSR戦略」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2008年1月号,pp.36-52

この商品の売上の一部が○○に寄付されています。環境に配慮して製造された商品です。これらのような文言を目にしたことがある人は多いと思います。ポーターは、企業がイメージアップを狙って実施するそうした施策が、社会的にも経済的にも成果をあげている事例は、ほとんどないと批判しています。

以上が、経営戦略論の権威:マイケル・ポーターによるCSR批判です。これに対して、CSR研究の権威:アンドリュー・クレーンが猛烈な反論をふっかける論文を書いて、大論争に発展します。次回は、クレーンの反論をご紹介する記事を書きたいと思います。

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参考文献

Porter, M. E. & Kramer, M. R.(2006)"Strategy and Society:The Link Between Competitive Advantage and Corporate Social Responsibility." Harvard Business Review, December. (村井裕訳「競争優位のCSR戦略」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2008年1月号,pp.36-52)

Porter, M. E. & Kramer, M. R.(2011)"Creating Shared Value:How to Reinvent Capitalism-and Unleash a Wave of Innovation and Growth." Harvard Business Review, January.(DHBR編集部訳「共通価値の戦略」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2011年6月号,pp.8-31)

Carroll, A. B.(1991)"The pyramid of corporate social responsibility: Toward the moral management of organizational stakeholders." Business horizons, 34(4), pp.40-48.

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