研究・論文

【紙上バトル実況➂】CSVに物申す!~CSR研究の第一人者による徹底批判~【ポーター vs クレーン】

2020年5月15日

前回は、戦略論で有名なマイケル・ポーターがCSV(共通価値の戦略)という理論を通して、CSR(企業の社会的責任)を批判する内容をお伝えしました。

今回は、ポーターが提唱するCSVを、CSR研究で有名なアンドリュー・クレーンが徹底的に批判していく論文をご紹介します。

論文紹介:Contesting the Value of “Creating Shared Value”

もうタイトルが「CSVにケンカを売る」ですからね笑。やり合う気満々です。実際、この後バッチバチのバトルが展開されていきます。

なお、紙上バトルはこの論文に対するポーターの反論→その反論に対するクレーンの反論と続いていきます。次回の記事ではそれらの反論2つをご紹介します。最後の記事では争点を整理し、争点ごとに勝敗をジャッジの上、私の独断と偏見でWinnerを発表させていただきます。どうぞ最後までお楽しみください笑

Contesting the Value of "Creating Shared Value" - Andrew Crane, Guido Palazzo, Laura J. Spence, Dirk Matten, 2014

This article critiques Porter and Kramer's concept of creating shared value. The strengths of the idea are highlighted in terms of its popularity among practitioner and academic audiences, its connecting of strategy and social goals, and its systematizing of some previously underdeveloped, disconnected areas of research and practice.

さて、Contesting the Value of “Creating Shared Value”に話を戻しましょう。この論文では、一応最初ちょっとだけ(1ページちょい)CSVの評価できる点も述べられていますが、その後で10ページ近くCSVに対する文句が並びます笑。お察しの通り、評価できる点は取ってつけたような内容なので、そちらは割愛してさっそく批判内容を見ていきましょう!

アンドリュー・クレーンのCSV批判

クレーンは大きく、次の4つの論点「パクリ疑惑」「お金儲けと社会貢献のトレードオフ」「ルールを守る難しさ」「企業の社会的役割の狭さ」からCSVを批判しています。

「パクリ疑惑」について

論文の中で、CSVは○○理論のパクリだ!とまでは言ってないのですが、様々な理論を紹介しつつ、CSVの特徴であるビジネスを通して社会問題を解決するというコンセプト自体に新規性がないと指摘しています。

クレーンは小難しい理論しか挙げていないので、他の有名な例を1つだけ紹介しましょう。2006年にムハマド・ユヌスがノーベル平和賞を受賞したことで話題になった「ソーシャルビジネス」は、聞いたことがある人も多いのではないでしょうか。ユヌスは、発展途上国の貧困にあえいでいる層が経済的に自立するキッカケを得られる、超少額融資:マイクロファイナンスという仕組みを広げたグラミン銀行の創設者です。彼はこのようにビジネス(金融サービス)を通して、社会問題(貧困)を解決する考え方を「ソーシャルビジネス」と称しました。

2011年に発表されたCSVの論文の中で、そうしたビジネスを通して社会問題を解決する他の概念とCSVの違いに言及がなかったことを、クレーンは批判しているのです。

「お金儲けと社会貢献のトレードオフ」について

トレードオフとは、相容れない状況を指します。お金儲け(ビジネス)と、社会貢献(社会問題の解決)は、相容れない場合の方が圧倒的に多いのが現実である!運よくたまたま成立したごく一部の事例を引き合いに、CSRよりCSVだ!などと主張するのは卑怯というのが第2の批判です。

特に、CSVが成立せずにトレードオフになると強調されているのが、ビジネス自体が社会にネガティブな影響を与えている側面もある産業です。タバコ・石油・武器などが該当します。

クレーンは、ビジネスが社会に与えるマイナスの影響について言及されてないCSVは、不十分な理論であると切って捨てているのです。「フェアトレードのタバコを製造しまくって、がん患者を増やすことはCSVですか?」と鬼の首を取ったように煽り立てています笑。 ※フェアトレードが何かの説明は、下記の記事をご参照ください。

アカデミー賞でも話題になったフェアトレードやオーガニックの商品を購入する消費者の実態とは?!

「ルールを守る難しさ」について

最初の記事で、ポーターはCSR全体を批判しているわけではないことを紹介しました。お金を稼いで株主と従業員に還元する経済的責任と、法律などの定められたルールを守る法的責任は批判していないのでした。

【紙上バトル実況①】CSVとは何か?~CSRとの違い~【ポーター vs クレーン】

CSVはお金を儲けるための理論ですので、経済的責任は批判されるはずがありません。ルールを守る法的責任を果たすことについては、ポーターは論文の中で、CSVは「法律や倫理基準の順守、企業活動からの害悪の削減が想定されている」とだけ述べて、さらっと流しています。クレーンは、これを軽率だと指摘しているのです。法律や規制が必ずしも適切に運用されていない発展途上国市場などを例に出して、ポーターは企業がルールを順守する/企業にルールを順守させることの難しさを理解していないと苦言を呈しています。CSR研究者のクレーンらしい批判内容ですね。

「企業の社会的役割の狭さ」について

これは一言で言うと、地域社会の様々な主体と協力・共生しようとすれば、企業はお金を儲けるだけでなく、より良い社会の実現に貢献できるのに…勿体ない!といった批判です。

最初の記事で、CSVの本質は企業が儲けるために「事業と関連が弱い社会問題を無視する/事業と関連が強い社会問題だけに取り組むこと」であると説明しました。

それを踏まえて、あらゆる企業がCSVという考え方だけで、地域社会と関わるようになったら、どうなるでしょうか?社会の問題やニーズには、沢山の種類があります。例えば、健康増進というニーズは従業員やその家族の健康という意味では全ての企業に関連します。一方で、難民受入れというニーズと密接に関連する企業をいくつも挙げることが出来る人はそういないでしょう。ビジネスと社会問題には相性があることは否めません。

ゆえに、企業がCSVに特化してしまうと、地域社会との関わりや社会問題対応、それに伴って一緒に協力するパートナーなどに偏りが生じ、ひいてはそれが社会全体のゆがみにつながって企業の社会的役割を狭めるというのが、クレーンによる最後のCSV批判です。

今回は、CSR研究で有名なアンドリュー・クレーンによる4つのCSV批判をご紹介しました。次回は、これに対するポーターの反論、さらにその反論に対するクレーンの反論をご紹介します。バトルの盛り上がりは最高潮、空前絶後の殴り合いです笑。

この記事に関連するSDGs

参考文献

Crane, A., Palazzo, G., Spence, L. J., & Matten, D.(2014)"Contesting the value of “creating shared value”." California management review, 56, pp.130-153.

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