研究・論文

【紙上バトル実況⑤】ついに決着!CSV vs CSRの勝者は2勝1敗1分けで…【ポーター vs クレーン】

2020年5月19日

4回にわたってご紹介した「共通価値の戦略(CSV) vs 企業の社会的責任(CSR)」ですが、今回でついに決着です。果たしてポーターとクレーンのどちらが勝ったのでしょうか。最後までお楽しみください。

CSV vs CSRの争点

CSV vs CSRの争点は、主に以下の4つに整理できるでしょう。 Round1:新規性をめぐるバトル Round2:トレードオフをめぐるバトル Round3:企業が地域社会と関わる範囲をめぐるバトル Round4:ルール順守をめぐるバトル 早速、ラウンドごとに勝敗をジャッジしていきたいと思います。

Round1:新規性をめぐるバトル

クレーンは、ポーターがCSVと他の「ビジネスを通して社会問題を解決する概念」の差異を明示していないことを繰り返し批判します。

Round1で重要な点は、CSVが投稿された「ハーバードビジネスレビュー」誌はビジネスマン向けの雑誌で、学術論文雑誌ではないことです

前者はビジネスマン向けに分かりやすく経営に役立つ理論や研究を紹介することに主眼があるので、先行研究のレビューや参照した文献の掲載などは基本的に行いません。一方、学術論文雑誌では、それら必須です。さらに、既存の研究や理論と比較して自分の主張のどこに新規・独自性があり、何の役に立つのかを明示しなければなりません。研究とは人間が1人ではたどり着くことができない英知・真理を、脈々と探究していくものですので、過去の成果を無視することは絶対に許されないのです。

つまり、クレーンが批判するCSVと類似概念との差異が、論文の中で明示されていない点は問題ないということになります。

次に判定すべきポイントは、実際のところ、CSVに新規・独自性はあるのかどうかですね。多くの研究者は、クレーンの言う通り、概念自体に新規性は認められない。しかし、提示されているCSVの方法論がポーターの戦略フレームワークに基づいた極めて実践的な点は評価できると見ています。

しかし、私は概念自体にも新規性があると評価をしています。なぜなら、CSVの本質は、「ビジネスを通して社会問題を解決すること」にありません。企業がお金を儲けるために「事業と関連が弱い社会問題を無視する/事業と関連が強い社会問題だけに取り組むこと」を提起している点です。上記を強調する論文や理論は、他に見当たりませんので、概念にも新規性があると判断します。

以上を踏まえて、Round1はマイケル・ポーターの完勝とジャッジします。

Round2:トレードオフをめぐるバトル

CSVでは、一般的にトレードオフ(相容れない)と考えられてきたビジネスと社会貢献について、「事業と関連が強い社会問題だけに取り組むこと」で、そのトレードオフを克服できるとされています。

クレーンは、タバコ・石油・武器産業といった、事業自体が地域社会にネガティブな影響を及ぼすビジネスなどを引き合いに、ビジネスと社会貢献のトレードオフを克服することは非現実的であると説きました。

今回は結論から言います。両者敗北です。実に残念な議論だと思います。

そもそも、ビジネスにおけるトレードオフというのは、CSRやCSVに限らず、常に発生し、悩まされるものです。ビジネス=トレードオフへの対処と言っても過言ではないと思います。 分かりやすい例で言えば、顧客は少しでも商品価格を安くしてほしいと考えますが、株主は利益率が減るのを看過しないでしょう。従業員は少しでも休みたいですが、経営者は沢山働いてお金を稼いできてほしいのです。

ポーターはそうした様々なトレードオフの中からCSR特有の問題だけ切り取って批判し、クレーンも同様にCSV特有の問題だけ切り取って批判しています。そんな批判には何の意味もありませんよね?

CSVやCSRに取り組む上で、ビジネスに関わる様々な主体の利害関係が対立した際、有効な方針・方策を提示することが本来必要だったわけです。CSVに関しては、社会問題に取り組む場合のトレードオフに、ビジネスと同じスタンスで取り組むべきという方針を示したと捉えることもできなくはありません。しかし、前述したようにビジネスにおけるトレードオフも大抵の場合は、解がありませんので、ポーターの勝利とするわけにもいかないと判断します。

以上を踏まえて、Round2は勝者なしの引き分けとジャッジします。

Round3:企業が地域社会と関わる範囲をめぐるバトル

クレーンは、あらゆる企業がCSVという考え方で地域社会に向き合えば、対応する社会問題の種類、それに伴って一緒に協力するパートナーなどに偏りが生じ、ひいてはそれが社会全体のゆがみにつながると批判しました。企業はお金儲け以外にも、広く地域社会に貢献できる可能性があると説きます。

ポーターは、上記を利益にシビアなビジネスの現場を何も知らない人間の戯言であると、切って落とします。実際に多くの企業がCSVを取り入れているのだから、理想論を振りかざすのはやめて、企業と地域社会の溝を少しでも埋めたCSVを認めるべきといった主張を展開します。

正直、Round3の主張は両者とも一理あると思います。引き分けとしても良いのですが、両者が提示したものとは違う観点(私の問題意識)から、このバトルを判定していきます。

違う観点とは、企業が地域社会と関わる範囲を狭めることで、儲けを損なう可能性についてです。

そもそも企業が儲けを出し続けるための条件とは何なのでしょうか。それはズバリ「競合他社が真似できない独自の事業活動を展開する」ことです。もちろん、他の条件もあるのですが、マイケル・ポーターが最も重要と主張しているのはコチラになります。

察しの良い人なら、この時点であれ?と思った人もいるのではないでしょうか。もし、全ての食品メーカーがCSVに取り組んだら、どうなるでしょう?ほとんどの企業が、発展途上国や地方の生産者を支援するか、食品ロスを活用した新商品を作るのではないでしょうか笑

CSVには、企業に競合他社と同じような独自性の低い事業活動を促しかねない、ポーターの戦略論と自己矛盾をきたしかねない側面があるのです。

少しだけ補足をすると、ポーターがCSVを提起した2006年、2011年は企業による社会問題対応が今ほど叫ばれていなかったため、事業を通して社会問題に取り組む=独自の事業活動と言える時代だったかもしれません。

しかし、2015年に国連総会で、全世界のあらゆる主体が2030年までに解決するべき社会問題リスト「SDGs(持続可能な開発目標)」が採択されて以降は、企業による社会問題対応が加速しています。今後は、社会問題を解決する事業活動にも独自性が求められる時代になってくるでしょう。

以上を踏まえて、際どいジャッジではありますが、Round3はポーターが自滅したとみなし、アンドリュー・クレーンの勝利とします。

Round4:ルール順守をめぐるバトル

クレーンは、CSVにおいて、法律や倫理的基準といった定められたルールの順守が当たり前のように扱われていることに苦言を呈し、CSVに取り組む企業が引き起こした不祥事などを引き合いに、その難しさを説きます。 ポーターは、CSVはあくまで企業がお金を儲けるための経営戦略論の話で、企業にルールを守らせるための方針・方法論は、対象としていないと反論しました。

Round4で注目すべき点は、クレーンが提示する主張を裏付ける根拠の薄弱さです。

CSVは社会問題を収益性という一面から捉えることを促すので、形だけの社会問題対応に終始したり、逆に地域社会に迷惑をかけてしまい兼ねないことを指摘しています。その例として、CSVに取り組む企業の不祥事をもってきています。

しかし、これは主張を支える根拠としては不十分です。学術的に充分な根拠たらしめるには、下記いずれかのプロセスが必要となります。①事例を詳細に分析して、CSVが(社会問題を一面的に捉えがち故に)不祥事を招いた過程を描く。②CSVに取り組む事例を大量に集めて、それらが形だけの取り組みに終始していたり、地域社会に迷惑をかける傾向があることを統計的に証明する。

ちなみに、最新の研究動向では、CSRに取り組む企業ほど、不祥事を起こしていることを統計的に証明した論文があります(下記参照)。一方、CSVが社会にネガティブな影響を及ぼすことを証明した研究は、今のところ見たことがありません。

Corporate Social Responsibility and Financial Fraud: The Moderating Effects of Governance and Religiosity

This study investigates how managers in firms that have committed fraud strategically use socially responsible activities in coordination with their fraudulent financial reporting practices.

これまでは批判方法の話でしたが、批判内容にも疑問を感じます。CSR研究者にとって都合が良いポジショントークである感が否めません。クレーンの主張の真逆、すなわちCSVに取り組めば、それがキッカケで社会問題への感度が高まり、ルール順守に敏感になる可能性もあるのではないでしょうか?

おそらく現実は、CSVが不祥事につながるパターンも、ルール順守を促進するパターンも両方あると思われます。求められるのは、①それぞれのメカニズムを事例の詳細な分析によって明らかにすること、②どちらが多いのか統計的に証明することではないでしょうか。

ルール順守について「満たされている前提」とスルーしたポーターの怠慢に不信感を募らせるクレーンの気持ちも分かります。しかし、適当な根拠で自分にとって都合が良い批判ばかり述べるクレーンの怠慢の方が遥かに問題です。

以上を踏まえて、Round4はマイケル・ポーターの勝利とジャッジします。

勝敗発表

Round1:新規性をめぐるバトル →CSVの概念・方法論ともに新規性が認められるので、ポーターの勝利 Round2:トレードオフをめぐるバトル →どちらも都合の良い理屈を並べているだけなので、勝者なしの引き分け Round3:企業が地域社会と関わる範囲をめぐるバトル →ポーターの主張に自己矛盾があるので、クレーンの勝利 Round4:ルール順守をめぐるバトル →クレーンの批判方法・内容に問題があるので、ポーターの勝利

ついに決着です!2勝1敗1分けで、CSV(共通価値の戦略)を提唱したマイケル・ポーターの勝利となりました。5回にわたって紙上バトルを実況させて頂きましたが、なんと1万字をゆうに超える大作となってしまいました笑。最後まで、お読みいただきまして本当にありがとうございます!

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参考文献

Carroll, A. B.(1991)"The pyramid of corporate social responsibility: Toward the moral management of organizational stakeholders." Business horizons, 34(4), pp.40-48.

Crane, A., Palazzo, G., Spence, L. J., & Matten, D.(2014)"Contesting the value of “creating shared value”." California management review, 56, pp.130-153.

Crane, A., Palazzo, G., Spence, L. J., & Matten, D.(2014)" Andrew Crane, Guido Palazzo, Laura J. Spence, and Dirk Matten reply." California management review, 56(2), pp.148-153.

Porter, M. E., & Kramer, M. R. (2014). A response to Andrew Crane et al.’s article. California Management Review, 56(2), 149-151.

Porter, M. E. & Kramer, M. R.(2006)"Strategy and Society:The Link Between Competitive Advantage and Corporate Social Responsibility." Harvard Business Review, December. (村井裕訳「競争優位のCSR戦略」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2008年1月号,pp.36-52)

Porter, M. E. & Kramer, M. R.(2011)"Creating Shared Value:How to Reinvent Capitalism-and Unleash a Wave of Innovation and Growth." Harvard Business Review, January.(DHBR編集部訳「共通価値の戦略」『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2011年6月号,pp.8-31)

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