研究・論文

【観光系起業家の事例に学ぶ】イノベーションのためのリスクそして不確実性

2020年5月11日

Innovation, Risk, and Uncertainty: A Study of Tourism Entrepreneurs

本記事では、観光起業家に対するインタビューを通して、イノベーションとリスク、不確実性の関係を明らかにした論文をご紹介します。

Innovation, Risk, and Uncertainty: A Study of Tourism Entrepreneurs - Allan M. Williams, Isabel Rodríguez Sánchez, Vlatka Škokić,

Innovation is inherently associated with risk and uncertainty, and the engagement of entrepreneurs with these is central to the innovation process. Entrepreneurs are not passive actors but, through learning, they contribute to the dynamic capabilities of the firm across the innovation process.

イノベーションとは?

論文冒頭で、イノベーションは本質的にリスクと不確実性に関連していることが述べられています。 それは別の言い方をすると既知のリスクと未知のリスクと言い換えられるとのことです。 既知のリスクはコストコントロールで解決できる可能性がありますが、ほとんどはそう簡単ではなく、不確実性の条件下での決定になってくるとのことです。 イノベーションについてはシュンペーターナイトの意見を参照しており、シュンペーターは「起業家はリスクと不確実性を管理し、自信を持って行動することだ」と述べ、一方ナイトは「不確実性をイノベーション普及の推進力とみなし、変化が予測可能であれば、一時的な利益の機会が生まれる」と述べました。

起業家の特性

さまざまな文献より、起業家はリスク許容度が高いことを例に出し、それは「過信であったり、コントロールできるという錯覚であったり、限られた知識から結論を出しているだけ」というエビデンスが多いと述べられています。 観光起業については「ライフスタイル」と「成長志向」に2分されていると述べられており、「ライフスタイル」型はビジネスの成長よりも生活の質を改善することに重きを置き、「成長志向」型はリスクを取り、企業を成長させる可能性が高いそうです。

リスクと不確実性の違い

アルパレスとバーニーは「起業家はリスクと不確実性について同義語のように扱われているが、ニュアンスの違いを理解することは必要だ」と述べられており、「ナイトのリスク(既知のリスク)と不確実性(未知のリスク)の古典的な区別に関連している」と述べています。つまり、「リスクは保険をかけることができるが、不確実性はそれができない」ということのようです。 しかし、起業家は不確実性についても管理の必要性が求められてきており、ナイトの言うところの”不確実性”は限定的または全く知識のない中での決定を要求することで、組織はそのような環境下で意思決定しています。 なので、リスクと不確実性を管理することと許容することが個人において重要だと述べられております。

イノベーションの道筋

企業発展は、ここの起業家のイノベーションプロセスの学習によってなされ、イノベーションはアイデアの生成と機会の創出をするような直感が必要とされると述べられています。 起業家の最初に当たる問題には、ロールモデルの不足、コミュニケーションチャネルの欠如、信頼と信用の欠如、確定的な顧客の欠如などがあるが、許容できないリスクがイノベーションプロセスの後期段階において明らかになることが多いとのことです。 観光起業家においては「アイデアの創出」、「連携確立」、「アイデアの実現、展開」というフレームワークが分析に用いられており、特に連携の確立は重要だと述べられております。

アイデアの生成 起業家が新しい機会を感じた時、イノベーションは始まる。
注意事項:見出されたギャップが顧客のニーズと密接に繋がり込めていない場合、この発見行為は不確実性の原因になる。
予防策:個人相手に魅力を繰り返し伝えることで評価され、事前の市場テストや財務的な実行可能性の分析に着手することが重要である。 イノベーションの失敗は技術的な製品の欠点ではなく、不十分な市場分析と不確実性によるものが大半。

アイデアの実現 アイデアを具体的なものに変えて関連する重要な組織課題に取り組むことが含まれる。主にプロトタイピングなどの小さなアクションを繰り返すことで潜在顧客の課題に擦り合わせていくフェーズで、目的は、不確実性をリスクに変換するかリスクをより正確に推定することです。 組織が生まれてくるとそれに伴い、組織リスク、財務リスク、それぞれに関連する新たなリスクと不確実性に繋がる可能性があり、人材リスクも発生するため、委員会を組成したり、教育プログラム導入のような戦略があるが、まだ個人の勘やあてずっぽうに頼らざるを得ない。

転換、拡大 イノベーションが市場に受け入れられ、商業化されれば、イノベーションプロセスは頂点に達しており、リスクと不確実の証明も最終段階で真偽がはっきりする。 ほとんどのイノベーションの失敗は、限定的な市場理解か顧客からの抵抗に打ち勝つことに失敗した場合に起こります。 そのためにも、情報とコミュニケーションの戦略は重要で、不確実性に直面して協力的な交換を促進する「潤滑油」である信頼を産み出すことができます。
:自分たちの評判を高めてくれるようなビジネスパートナーや公式団体を見つけること、不確実性に対する検閲や解釈方法を改善すること、でもタイプで実験してみることなどが挙げられます。

調査結果(具体例)

観光系起業家に1時間近いインタビューをしました。対象はイギリスの28人とスペインの29人の起業家です。

イノベーションに付随する初期のリスクと不確実性に対して高く感じているか、低く感じているかの2択が存在していて、低いと認識している起業家は、起業家としての経験やその分野への自信が反映されていて、当然ですが自身がリスク耐性があると考えていました。リスク評価には個人の部分での金融負担も関係していて、比較的に若かった人は、家族的責任がなかったか、キャリアにおける低いスイッチングコストしかありませんでした。

対照的に高いリスクと感じた起業家は以下の4つの憂慮事項がありました。
1、プロジェクト全体の高い不確実性
2、投資に対する金融リスク
3、家族に対するリスク、評判の失墜
4、初期知識、業界での経験不足、不確実性などへの個人の姿勢

起業した要因は自身のビジョンによるものがほとんどで、ほんの一部、リスクと不確実性について起業してから気づいた人もいました。一般的には、プロジェクトが進み、目標が達成されると、高レベルのリスクと不確実性は低下しました。

アイデア生成段階でのリスク、不確実性

リスクの理解ー最も重要なリスクは、開始コストと失敗のリスクである金銭的なもので、ほとんどの起業家は資金調達か機会費用のいずれの観点からも、失敗の結果について懸念していた。 ある起業家の意見の中には、「収益化が難しく、大規模にビジネスをやっていくには高度な自動化が必要」と述べられています。

不確実性の理解ー全ての起業家の中で一番重要なテーマで、製品の将来の需要に関してかなり不確実性が存在していた。 起業家の実際のコメントを抜粋すると、 「顧客に本当に受け入れられるかわからない技術ソリューション」 「斬新なイノベーションに対する結果の予測不能な不安」 「競合他社の行動に対する知識の欠如、模倣される恐れ、自分たちよりも早く市場を獲得される恐れ、実現できるかどうかわからない不確実性」

リスクと不確実性に対処していく戦略ー多くの起業家は経済的リスクに対処するためにブートストラッピング戦略つまり、給与なしでプロジェクトに取り組んだり、並行して仕事をするなど、創業者に関連したことをこなしていました。 一方で、この戦略は学習する初期段階で新しいリスクを生成する可能性があります。(他のジョブによって、本プロジェクトに集中できないなど) 典型的な戦略は、市場テストのための最新版の製作やPoCイベントを祝うなどがありました。いくつかの例では、ターゲットの市場で協業するという事例もありました。 顧客と話をしながら製品を構築し販売することで、この過程を最小化した事例がありました。 このフェーズは潜在的に高いリスクにも関わらず、正式なリスク調査をしたのは一人だけでした。 勘に頼った起業家は、状況に応じて迅速な分析を行い、その根拠をもとに行動していたと言います。「リスクと直感とスピードを混ぜ合わせてなんとかした。」

アイデア発展の段階でのリスクと戦略

リスクの理解ー金融リスクが顕著で11の起業家はキャッシュフローが悪く、投資家からの資金調達の遅延により、最大のリスク要因だった。 インタビュー対象者は、民間資本投資に関連するリスクを4つ取り上げ、 1、支配権の喪失 2、予測不能 3、長期化することによる投資家折衝 4、現状がどのように働くかに関する知識不足 組織、運用のリスクが二つ目に取り上げられ、運用リスクは市場に入れるまでの時間と開発サイクルの短縮の必要に関連していて、一般的にはMVPという必要最小限の機能を備えたプロダクトを潜在顧客にアプローチする方法をとりますが、それ自体がリスクになりうると述べられています。 他にも予期しない運用コスト、初期のビジネス計画からの逸脱などもあります。 組織については、創業者がたくさんのタスクに終われるあまり、十分でない採用をしてしまい、有り余るほどの事項が創業者に依存してしまうリスクがあります。

不確実性の理解ーコントロールできないイベントが幅広くあるため、なんども起業家を不安にします。 ある起業家は「遵守する法的枠組みがまだなかったため、明日はどうなるかわからないという恐怖の中で働いていた。技術者が技術的問題を解決できず、立ち往生したり、全てが停まってしまう可能性が高いが、それが何かわからない。。。」 スキルと知識の欠如も不確実性の原因で、業界知識のギャップや技術知識の不足も含まれている。

リスクと不確実性に対処する戦略ー 特定のタスクは外注する(マーケティング、会計など)。 起業家の大多数は、コスト管理でスタッフの出費を最低限に抑えるなどをしました。組織化の効能で、起業家はマネジメントリスクを最小化できます。他の方法では、起業家自身でやるということもありますが、多くのタスクで集中学習が必要で、結果様々なリスクが生じる原因になりました。 知識のギャップを埋め、不確実性のリスクを最小化するために、諮問委員会の作成により知識を補充したり、観光業界の専門家や投資家、起業家などから広範なネットワーキングにより、正式に学習していました。

イノベーション普及段階でのリスクと戦略

リスクの理解ーファイナンスが指数関数的にリスクが増加する。 最も重要なのは、大多数の顧客が技術革新へ拒否反応を起こしそうな市場はリスクを抱えやすいということで、評判や信頼性の欠如は、新興企業の場合においては、新規参入リスクを高めます。 市場リスクの元は顧客の自身によって生み出される不確実性によると起業家は述べています。 起業家は市場に参入した時の競争の激しさをよりよく認識する。 組織、業務、安全性、データ保護の技術リスクは依然残りつづける。

不確実性の理解ーこの段階での不確実性は市場に関連するところで、顧客の道で予測困難な行動に関連している。リスクと不確実性の感覚は決して止まることがなく、その管理能力を常に変化させていかなければならない。 組織拡大に伴い、組織、運用にも不確実性が生まれ、国際化していけば、法律、文化、規範に置いて不確実性が増加する。 経済的リスクを最小限にするには、従来のマーケティングを低コストで行うなどが必要。

SDGs達成に向けて

イノベーション創出の重要性については、SDGs9「産業と技術革新の基盤をつくろう」でも言及されています。本論文には、イノベーションを創出する上でのリスクや不確実性との付き合い方に関して沢山の示唆がありました。少しでも現場でのお役に立てば幸いです!

この記事に関連するSDGs

参考文献

Allan M. Williams, Isabel Rodríguez Sánchez, Vlatka Škokić(2019)“Innovation, Risk, and Uncertainty: A Study of Tourism Entrepreneurs.” Journal of Travel Research.

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