研究・論文

社会起業家はSDGsとどう向き合っているのか?

2020年8月29日

社会起業家ってどんな人?

先日のカンブリア宮殿にて、社会起業家集団のボーダレスジャパン社が取り上げられていました。バングラデシュで貧困に苦しむ人たちの自立につながる革製品など、社会問題を解決する28のビジネスを展開する企業で、そうしたビジネスを産み出すユニークな仕組みが有名です。

例えば、ある社員が、社会問題を解決するためのビジネスを提案する。そのビジネスモデルをボーダレス傘下の事業会社のトップたちが審査した上でGOサインが出れば、ボーダレス・ジャパンが1500万円を投資、その社員を社長とした新会社を立ち上げることができる。

「社会問題をビジネスで解決する」ボーダレス・ジャパン 若き起業家の挑戦:カンブリア宮殿|テレ東プラス

4月16日(木)夜10時放送の「カンブリア宮殿」は、社会問題をビジネスで解決するソーシャルビジネスが、今、世界中から注目され広がりを見せている。社会貢献ビジネスの新潮流を生み出すボーダレス・ジャパンの戦略に迫る! 入社希望者が殺到する! 新世代ソーシャルビジネスの挑戦者 ...

ボーダレスジャパン社は、誰もが社会問題を解決するためのビジネスを立ち上げ可能な仕組みを整えているのです。そうした社会問題の解決に向けたビジネスを産み出す人は、一般的に「社会起業家」と呼ばれてます。

今回は、環境先進国とも言われているドイツの社会起業家が、SDGsとどのように向き合っているのかを、インタビュー調査から明らかにした論文をレビューしていきたいと思います。

SDGs(持続可能な開発目標)とは、2015年に国連総会で採択された、全世界のあらゆる主体が2030年までに解決するべき問題のリストです。具体的な17の目標、169のターゲット、232の指標から成ります。社会起業家は、SDGs達成の大きな原動力として期待されているのです。

論文紹介:Do the United Nations’ Sustainable Development Goals matter for social entrepreneurial ventures? A bottom-up perspective

この論文では、ドイツのベルリンが拠点がある社会起業家15名に対して、SDGsに関する取り組みや考え方などをインタビューしています。メーカーや教育、金融、コンサルなど業種は様々です。インタビュー記録の分析から、社会起業家はSDGs達成に必ずしも積極的ではなく、社会起業家のSDGsに対する向き合い方は「SDGs伝道者」「SDGs機会主義者」「SDGs拒絶者」の3タイプに分類できるとされています。

Do the United Nations' Sustainable Development Goals matter for social entrepreneurial ventures? A bottom-up perspective

Highlights that the UN relies on social entrepreneurial ventures to accomplish the SDGs. * Investigates the utilization forms and rationales of the SDG framework from the perspective of social entrepreneurs. * Identifies three types of SDG (non-)utilization: SDG evangelism, SDG opportunism, and SDG denial. * Suggests that insufficient localization efforts may inhibit SDG utilization.

SDGs伝道者

伝道者は、企業内外の組織を巻き込みながら、積極的に事業を通してSDGs達成を目指す社会起業家です。15社の内、5社がこのタイプに分類されました。

伝道者は、企業の共通目標としてSDGsを掲げ、事業活動に統合します。すなわち、自社事業を整理する枠組みとしてSDGsを活用しているのです。

また伝道者は、SDGsは全世界共通の目標であることから、志を共にするパートナーとのマッチングや、パートナーとの事業における適切な目標と成果指標の策定にも用います。すなわち、組織の指針としてSDGsを活用しているのです。

ある社会起業家は「我々にとっての経営課題は、パートナーと共にSDGsに基づいてプロジェクトを実施することである。そのため、SDGsが各プロジェクトのロードマップとなる。」と語ったそうです。

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SDGs機会主義者

機会主義者は、自社のメリットにつながる形でSDGsを利用する社会起業家です。伝道者はSDGsを目的に位置付けますが、機械主義者手段に位置付けるという説明が分かりやすいかもしれません。15社の内、3社がこのタイプに分類されました。

ある社会起業家は、SDGs達成に向けた公的資金援助について語ってくれました。SDGs達成を掲げることで公的機関というステークホルダーから、資金という経営資源を動員できます。そうした制度には、成果の報告がつきものですが、標準化されたSDGsの指標を用いることで楽にこなせるわけです。すなわち、ステークホルダー対応としてSDGsを利用しているといえます。

さらにこのタイプの社会起業家たちは、ステークホルダー対応のためにSDGsを掲げることはあっても、何の法的拘束・強制力が無い(単なる象徴に過ぎない)という理由から、事業に統合したり、事業の目的として位置付けることはないと語っています。すなわち、SDGsをお飾りやポーズとして利用しているのです。

一歩間違えば、俗にいう「SDGsウォッシュ」ですね。一言で言うと、「SDGsをやっているふりをする」ことを指します。

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SDGs拒絶者

拒絶者は、文字通りの社会起業家です笑。拒絶の背景として、非実用と非理想主義が挙げられています。15社の内、7社がこのタイプに分類されました。意外にも最多です。

非実用的な理由として、自社の事業との関連が認められないから、日々の業務に使える目標や指標ではないからという2点が語られました。

理想主義とは、国際協調によって平和な世界を実現できるとする立場を指します。SDGsまんまですね。それを批判する理由としては、以下2点が語られています。1点目は、世界平和を達成するためには、国連のような大きい機関からのトップダウンで進めるのではなく、地域に根差したボトムアップでの草の根活動が大切という考えです。2点目は、国連のような国際機関・政治機関に対する不信感です。

地域密着型の事業を展開する社会起業家は、上記の考え方をしそうですね。

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実務への示唆

本論文では、ビジネスを通した社会問題の解決に情熱を燃やす社会起業家であっても、(あるいはだからこそ、)一概にSDGsが好意的に受け入れられているわけではないことが、その背景にある要因も含めて明らかになりました。

社会起業家とSDGsの乖離についてもう1点補足します。実際にインタビューを実施したのは15社ですが、最初に依頼を出したのは28社だったそうです。そのうち10社は依頼を断られるなど単純にインタビューが実現しませんでした。残りの3社は、なんとSDGsを知らなかったために、対象から外したとのことでした。

インタビュー分析のような定性的研究で、定量的な話をする意味は薄いですが、ドイツのような環境意識が高い国の社会起業家において、SDGsを知らない人が居て、かつ拒絶者が多数というのは、非常に意外でした。むしろ、意識が高いからこそSDGsを安易に妄信したりせず、批判的意識で捉える人も多いのかもしれませんね。

本論文における実務への示唆は、「何も考えずにSDGsを振りかざすことの危険性」に尽きるでしょう。全世界共通の目標だからといって、何も考えずにSDGs!SDGs!言いすぎると、意外と周りにいるかもしれないSDGs拒絶者にそっぽを向かれる可能性があります。そこで、下記2点の実践を推奨いたします。

自社のSDGsに対するスタンスを明確・統一化する

念のため補足しますが、この論文では、伝道者はすばらしく、他2つは悪いといった議論をしているわけではありません。私も企業とSDGs(社会問題)との向き合い方には、多様な考え方があってしかるべきだと思います。 避けなければならないのは、組織としてSDGsに対するスタンスが不明確、最悪なのは社長は伝道者で広報は拒絶者といった具合に、組織内で統一できていない状況です。ステークホルダーとのコミュニケーションで齟齬が生じる可能性が高く、「SDGsウォッシュ」批判を招いてしまう恐れすらあります。 個人の考えとは別に、組織としてのスタンスを明確・統一化しておく必要があるでしょう。

ステークホルダーのSDGsに対するスタンスを把握する

当然のことながら、SDGs拒絶者に、SDGsを達成するためにこんなプロジェクトしませんか?などと持ち掛けても、呆れられるに決まっていますよね。 上記のように書くと当たり前やん!と思われるかもしれませんが、現実には注意していない人が非常に多いです。実は、論文の問題意識もこの点にありました。すなわち、SDGsは国連が掲げる全世界共通の目標であるために、「所与の前提」であると勘違いされている節があるのではないか?という視点です。SDGsは、基本的に良い話なので、表向きに取り組んで反感を買うことは少ないかもしれません。しかし、実態としては批判的な人も一定数いることは頭の片隅に置いておかなければならないのです。 今後SDGsがさらに拡大する中で、企業が円滑に事業を展開するためには、顧客や競合他社、パートナーなどステークホルダーのSDGsに対するスタンスを把握しておかなければなりません。場合によっては、戦略的にSDGs拒絶者のスタンスを選択し、同様に拒絶者のステークホルダーと強固な関係を築くことで、優位性を築けることもあるかもしれないのです。

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参考文献

Günzel-Jensen, F., Siebold, N., Kroeger, A., & Korsgaard, S. (2020). Do the United Nations’ Sustainable Development Goals matter for social entrepreneurial ventures? A bottom-up perspective. Journal of Business Venturing Insights, 13, e00162.

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